2014年1月2日木曜日

馬の麻酔のかけ方

 今年は午年。
 馬がその葉を食べると酔っぱらったようになる、という言い伝えから、馬酔木という漢字をあてられたのがアセビです。京都市立病院の南駐車場を入ったところにも植えられています。3月から4月にかけては、白い可憐な花が鈴なりに咲きます。
京都市立病院南駐車場のアセビの木(昨年4月ころ撮影)

 このアセビで、馬に麻酔がかけられるかどうかというと、残念ながらできません。馬は、その体重が800kg以上もある大型獣で、この馬に全身麻酔をかけるというのは、かなり高度な知識と技術を要するようです。

 酪農学園大学獣医学部の山下和人先生の論文(本邦の獣医麻酔. 臨床麻酔 Vol. 31 / No. 9 (2007-9))によれば、馬は、特に競走馬は、麻酔導入時がむずかしいのだそうです。馬の麻酔導入は、別名「倒馬」と呼ばれています。静かに沈んでいくように安全かつスムーズに「倒馬」するために、通常は静脈麻酔薬と中枢性筋弛緩薬作用をもつ薬物を併用するそうです。
a:フリーフォール法
b:スイングドア法
c, d:チルティングテーブル法
(山下和人「本邦の獣医麻酔」より)

 「倒馬」がうまくいかず、足を骨折すると、その時点で競走馬としての生命は絶たれてしまいます。
重種馬(雄、17歳、体重888kg)の開腹術
における麻酔管理。
a:仰臥位で麻酔管理中
b:大動物用吸入麻酔器
c:麻酔器に搭載された人工呼吸器の
最大容量22㍑の下降式ベローズ
(山下和人「本邦の獣医麻酔」より)

 山下先生によれば、「大きな馬が意のままに地面に崩れていく様子は非常にスリリングであり、獣医麻酔医にとって最も魅力的で病み付きになる瞬間の1つ」なのだそうです。

 でも、一方では馬の麻酔事故の発生率は約1%と他の動物種に比べると圧倒的に高いと言われています。とくに、麻酔回復期の馬は、意識を取り戻すと起立しようと努力するのですが、骨格筋機能がまだ十分に回復していないと、しっかり起立できず、くり返し起立を試みて、興奮状態に陥るのだそうです。 
 また、起立時に馬の四肢に加わる負担は非常に大きく、無理な起立動作が骨折を引き起こすことさえあるようです。